更新日:2010年12月21日
データの信頼性を確保することは大切ですが、どのようにしたらデータの信頼性を客観的に証明できるのでしょうか? このページでは、理化学分析の際に分析値の信頼性を証明するために行われている主な取組である「分析法の妥当性確認」、「精度管理」、「試験所認定」についてご紹介します。 |
分析法の妥当性確認
分析を行う場合には、まずその目的をはっきりさせる必要があります。「○○という食品に含まれる××という物質を分析したい」、「○ mg/kgくらいの濃度を測りたい」、「精確な(又は、大まかな)濃度が知りたい」など、どのような目的を設定するかにより、分析の発注の仕方や採用する分析法が異なります。
このとき、選んだ分析法が初めに設定した分析の目的を達成できることを科学的に証明することが必要です。これを分析法の妥当性確認(メソッドバリデーション)といい、例えば以下の項目について分析法の性能を確認する必要があります。
不純物の存在下でも、他の化学物質と間違えないで、分析したい化学物質を確実に測定できること。
分析に用いる検量線が、分析したい試料中の化学物質の濃度範囲で直線になっていること。
試料中の化学物質の真の濃度(真値)と分析値との近さのこと。
分析値のばらつきの度合。同じ人が同じ試薬を用いて短時間に繰り返し測定を行った場合の分析値のばらつきを併行精度、同じ試験室内で分析の日や分析担当者などを変えて測定したときの分析値のばらつきを室内精度(室内再現精度)、同じ方法を使って異なる試験室で測定したときの分析値のばらつきを室間再現精度といいます。
妥当性が確認された分析対象の濃度範囲。
- 検出限界及び定量限界
これ以上低い濃度では化学物質の存在を検出できない限界の濃度(検出限界)と適切な正確さをもって分析値を求めることができる限界の濃度(定量限界)。
真の値があると考えられる範囲のこと。不確かさを求めるには、まず、サンプリング、試薬の純度、分析者の熟練度などそれぞれの要因について不確かさ(標準不確かさ)を求め、それを足し合わせることで全体の不確かさ(合成標準不確かさ)を求めます。さらに、不確かさの範囲内に真の値が入っている確率を高めるため、合成標準不確かさに係数(通常は2を使用)をかけあわせた拡張不確かさを算出します。
なお、農林水産省の食品中の有害化学物質に関する実態調査では、合成標準不確かさの見積もりが行われていない場合、繰り返し測定から算出した室内精度を不確かさとして用いています。
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公表されている分析法の中には、妥当性が確認されている方法もあります。その方法を用いる場合は、報告されている分析の性能に関するデータを使用することができます。ただし、その場合にも、実際にその分析を自社で行ったときに、報告されているものと同等の性能を再現できるかどうかを検証(メソッドベリフィケーション)することが必要です。また、分析法を新しく設計したり既存の方法を少しでも改良したりしたときには、改めてその分析法の妥当性を確認することが必要です。
なお、食品中の化学物質の分析値は、分析対象とする食品の影響を大きく受け、食品の種類や性質によってどのような影響をどの程度受けるかが異なります。そのため、ある食品について妥当性が確認がされている分析法が、別の食品にも適用できるかどうか注意する必要があります。
分析法の妥当性確認については、国際的なガイドラインが示されています。実際に分析法の妥当性確認や検証を行う場合には、下記の資料をご参照ください。
参考
精度管理
食品中の理化学分析を行う際には、日々の試験室内での一連の操作や分析結果が正常に保たれているかどうかを確認し、異常や疑わしい点があれば適宜改善を行い一定の品質を維持すること(精度管理)が大切です。
なかでも、自らの試験室内で日常的に行う精度管理を内部精度管理といいます。
食品に含まれる化学物質の分析に関しては、厚生省(当時)の「食品衛生検査施設等における検査等の業務の管理の実施について」(平成9年4月1日付け衛食第117号)等に準拠して内部精度管理を実施し、日常的に分析値の信頼性を検証することが必要です。
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ただし、内部精度管理は1つの試験室内で行われるため、自らの分析結果を客観的に評価できません。そこで、他の試験室の分析値や基準となる値と比較して、自らの試験室の位置づけや傾向を確認する取組が行われています。複数の試験室の参加の下で行うクロスチェックや技能試験(プロフィシエンシーテスティング)への参加を外部精度管理といいます。
食品分析の外部精度管理のため実施されるプログラムとしては、英国のFERA(Food and Environment Research Agency)が実施しているFAPAS[外部リンク]などの技能試験があります。技能試験では、実施機関から配布された未知濃度の分析対象物質を含む均質な試料を、多数の分析機関が日常の管理の下で分析し結果を報告することで、自らの分析値が付与された認証値又は参加分析機関の平均値とどれだけ一致しているかを検証することができます。
データの評価にはzスコア(分析値をx、外れ値を除いた後の平均値又は認証値をx'、目標標準偏差(適切に分析が行われたときに想定されるばらつき)をσとしたとき、(x-x')/σをzスコアといいます。)を用います。zスコアが0に近いほど分析値が認証値や平均値に近いことを示し、通常はこのzスコアの絶対値が2以内の場合は満足できる結果と評価されます。zスコアの絶対値が2を超えたときには、分析結果が認証値又は平均値と比べて統計学的に想定されるばらつきを大きく超えてずれているため疑わしい結果又は満足できない結果と評価され、分析の手順や方法に何か問題がなかったか検証し、適宜改善策を検討する必要があります。
なお、技能試験の結果は1回の分析結果の評価に過ぎないため、技能試験には定期的(通常は年に1回)に参加することが重要です。その結果が仮に満足できる結果であったとしても、zスコアが常に高め又は低めに出る場合には、その偏りの原因を調べて改善するなど、随時その結果を自らの分析値の信頼性の向上に役立てていくことが大切です。
試験所認定
分析機関における品質保証に関する規格としてISO/IEC 17025:2005があります。この規格では、試験所又は校正機関が試験又は校正を行うにあたって、その能力がある機関として認定を受けようとする場合に満たすべき要求事項が規定されています。ISO/IEC 17025:2005の認定を受けると、分析に関する品質管理が適切に実施されていることや技術的に的確で妥当な結果を出す能力があることを示すことができます。 食品分析の分野では、Codex委員会で食品の輸出入の規制に関わる試験室の条件としてISO/IEC 17025:2005への適合が求められるなど、国際的にはISO/IEC 17025:2005に適合していない分析機関による試験結果は通用しないことに留意が必要です。
なお、ISO/IEC 17025:2005は分析法ごとに認定されるものであることから、分析を発注する際には、分析機関がISO/IEC 17025:2005の認証を取得しているとしても何の分析法で認証を取得しているかということに気をつける必要があります。
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